ガラス製の投薬瓶をコルクで密閉し、ハマグリの貝殻に軟膏を詰めていた時代からの老舗だ。ヤマユーのブランド名で1世紀あまり。馬野化学容器は高い安全性を誇る医薬品容器で、厳格な衛生基準が求められる医療現場の期待に応えてきた。その歴史は素材の革新とともにある。1970年に発売されたプラスチック製の点眼容器は、同年開催の大阪万博にあやかって「万国容器」と名づけられ、今日にまで続くロングセラーとなった。 「ノギスでは誤差が出ない不適合品でも、手に持っただけで成形不良がわかる。ベテランの手先の感覚には本当に助けられています」。馬野知子社長がそう語るように、同社の競争力の源泉は長い歴史のなかで研ぎ澄まされ、伝承されてきた「名人芸」。さらには洗浄・滅菌の工程を自動化し、人の手を介した雑菌繁殖のリスクを極限まで抑え込んでいるのも特徴だ。全国各地の大学病院に製品が採用されている事実は、ブランド力の高さを雄弁に物語る。一時は競合大手に価格競争を仕掛けられもしたが、そこには目もくれなかった馬野化学容器。一度は離れた顧客も「やはりヤマユーは質が違う」「滅菌なら馬野」と口を揃えて戻ってくるようになり、図らずも品質本位のものづくりが証明される格好になった。 ”みんなのお母さん ”がヤマユーの未来をつくる 先代の急逝に伴い、馬野社長が経営を継いだのは2014年のことだ。同社初の女性社長は「みんなのお母さん」を理想像に対話路線を掲げ、それまで先送りにされてきた領域に着手した。なかでも2018年のベトナム現地法人設立は、生産を自社製品に一本化して30年来の悲願。コロナ禍で当初の計画は立ち遅れるも、馬野社長は「言葉の壁を越えて、日本基準のものづくりを伝えたい」と、新市場開拓へ明るい姿勢を崩さない。この6月にはベトナム人社員を日本に招き、文化体験も含めた研修を本格化させている。 一方では新製品の開発にも意欲を見せる。2025年の大阪・関西万博をにらみ、「令和の万国容器」を世に送り出したいというのだ。わずかな仕様変更が患者の心理状態にも影響することから、リニューアルの難しい医薬品容器。新たな選択肢を示すことで、医療の明日を支えてみせる。 ...
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